2008/11/04

感想文●野田秀樹「駄文集大成 おねえさんといっしょ」

公開講座後半も4回目。11月7日の講座には演劇界のトップランナーとしてご活躍中の野田秀樹さんがいらっしゃり、人文社会系研究科日本文化研究専攻で、野田さんと演劇の活動もされていた渡部泰明先生が、さまざまなお話を引き出してくださいます。お二人は一緒に夢の遊眠社を立ち上げられたとのことなので、私個人的には活動当初のことや当時のエピソードをお聞きしたいと考えています。
野田さんの書かれた文庫本、『駄文集大成 おねえさんといっしょ』(新潮文庫)を、先日ふと手に取りました。だいぶ前に出されたものですが、コンパクトかつ多岐にわたる野田さんの活動が紹介されています。昭和60年4月から62年3月まで「膝小僧時代」昭和62年4月から8月まで『小説新潮』に連載されたエッセイや、中村勘九郎さん、扇田昭彦さんら演劇人との対談、その他もろもろ多種多様な文章がまとめられており、当時、野田さんが演劇で挑戦したかったこと、作家に関しての考察、演劇をとりまく環境についてなど書かれています。
中でも衝撃的なのが有名人をドラマティックに紹介しているエッセイ! 美空ひばりや松田聖子、マドンナ、長嶋茂雄などの個性豊かな人たちを紹介するのに、いつの間にかにショートストーリーが出来上がっていて、エッセイだけれど短編小説? と思うほどです。紹介する人物の日常では到底ありえない世界をつくりあげ、そこにイキイキと人物を描きだす。すると、いつの間にか、そのありえない世界の中で人物が歩き出していて、最終的には「あっ、そうだよね、この人、きっと!」といった感じで読者を納得させてしまう。それも松田聖子、マドンナ、長嶋茂雄ですよ! 皆、ありきたりの言葉では語りきれない個性的な人ばかり。たった数ページのエッセイで、これをやり遂げてしまう野田さんの表現力に、私はただただ驚くばかりでした。
そしてこれが演劇の脚本になるとどうでしょう。エッセイで取り上げた人たちに劣らず個性的な登場人物が複数出てきて、それぞれが、それぞれの道を歩き出し、巡り合い、ぶつかりあう。それはいったいどのような話でしょうか? これは考えても、なかなかわかるものではありません。舞台を見て、初めてわかるのかもしれません。来年年明けに、野田さんの新作『パイパー』が上演されます。それも舞台は1000年後の火星!? まずは、ちょっと手軽な宇宙旅行に渋谷へ参り、考えてみようと思います。(有賀沙織)

1 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

面白く拝読しました.
良く書けています.