後期第2回、10月31日の公開講座に向けて、講師にお迎えする田中泯さんの出演作品を鑑賞しました。
田中泯さんは、世界的に知られる舞踏家で振付師です。…と、同時に山梨県北杜市白州町で1985年に「身体気象農場」を開設され、97年には同県甲斐市上芹沢に「舞踏資源研究所/桃花村」を設立。農業と舞踊を同時に実践される農業者でもいらっしゃいます。
舞踏においては、土方巽の作品に参加されるなど、すでにそのご活動の様子はよく知られていましたが、その名がそれまで舞踏の世界に接したことのなかった多くの人々(まさに私のように)の知るところとなったのは、映画への出演がありました。今回は、その映画作品のなかから、代表作である標記2作品を取り上げ、ご紹介します。
2作品ともひじょうに有名で、人気のある作品ですので、ご覧になった受講生の皆さんも多いかと思います(まだの方はぜひ!)。田中さんの役どころは、「たそがれ」では主人公の敵役・余吾善右門、「ヒミコ」では主人公の父で、ゲイの老人ホームを経営する卑弥呼を演じられています。この2つの役だけで田中さんを語るには足りなさ過ぎることは十分承知のうえで、あえていうなら、どちらの役もその存在感に「ゾクゾクする」ということ。いずれも、出演者情報では3番目にでてくるような役どころですが、総出演“時間”は他の脇役さんより少なめです。特に余吾善右門は、途中に少しと最後に登場して、終始暗いアングルなので表情が見えにくいような気さえします。それでも、迫力のある決闘シーンの立ち回り、憂いと怒りと悲しみが同居したたたずまいに、初映画出演となった同作品で日本アカデミー助演男優賞を受賞されたのも納得です。恥ずかしながら舞踏の知識はほとんどありませんが、切られた善右門が最後に悶絶して倒れるシーンには、舞踏の要素がぎゅっと凝縮されているような、力強さが感じられます。
一方の「ヒミコ」は、そうした舞踏家の「動」のイメージとは逆に、末期がんにおかされほとんどをベッドですごす「静」の役どころ。田中さんも、はじめの記者会見では「舞踏家が寝てるばかりじゃあ」とボヤかれたそうですが、映画になったのを見たときは、「踊っているときの感覚が見えた」※そうです 。ますます舞踏の世界の奥深さを感じます。コワイのか、やさしいのか、寂しいのか・・・最後までとらえどころのない卑弥呼ですが、死の間際に、娘である主人公に向かって、『本当のことを言うわ・・・』とじっと見開いた目で漏らす、『・・・あなたが、好きよ・・・』の一言は、まさに究極のゾクゾク感。それは、怖いとかドキドキするとかそういう陳腐な言葉ではもはや表せない、フシギな感覚を私たちにもたらす演技です。
舞踏や農業のくらしがどのように結実して、かの役たちをつくりだしていったのか、30日はぜひその一端が伺えるといいなと、いまから楽しみに思います。(横山梓)
※ クロワッサン2008年2月25日号 インタビューより
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