2008/10/23

感想文●田中泯 出演作品「たそがれ清兵衛」「メゾンドヒミコ」

後期第2回、10月31日の公開講座に向けて、講師にお迎えする田中泯さんの出演作品を鑑賞しました。
田中泯さんは、世界的に知られる舞踏家で振付師です。…と、同時に山梨県北杜市白州町で1985年に「身体気象農場」を開設され、97年には同県甲斐市上芹沢に「舞踏資源研究所/桃花村」を設立。農業と舞踊を同時に実践される農業者でもいらっしゃいます。
舞踏においては、土方巽の作品に参加されるなど、すでにそのご活動の様子はよく知られていましたが、その名がそれまで舞踏の世界に接したことのなかった多くの人々(まさに私のように)の知るところとなったのは、映画への出演がありました。今回は、その映画作品のなかから、代表作である標記2作品を取り上げ、ご紹介します。
2作品ともひじょうに有名で、人気のある作品ですので、ご覧になった受講生の皆さんも多いかと思います(まだの方はぜひ!)。田中さんの役どころは、「たそがれ」では主人公の敵役・余吾善右門、「ヒミコ」では主人公の父で、ゲイの老人ホームを経営する卑弥呼を演じられています。この2つの役だけで田中さんを語るには足りなさ過ぎることは十分承知のうえで、あえていうなら、どちらの役もその存在感に「ゾクゾクする」ということ。いずれも、出演者情報では3番目にでてくるような役どころですが、総出演“時間”は他の脇役さんより少なめです。特に余吾善右門は、途中に少しと最後に登場して、終始暗いアングルなので表情が見えにくいような気さえします。それでも、迫力のある決闘シーンの立ち回り、憂いと怒りと悲しみが同居したたたずまいに、初映画出演となった同作品で日本アカデミー助演男優賞を受賞されたのも納得です。恥ずかしながら舞踏の知識はほとんどありませんが、切られた善右門が最後に悶絶して倒れるシーンには、舞踏の要素がぎゅっと凝縮されているような、力強さが感じられます。
一方の「ヒミコ」は、そうした舞踏家の「動」のイメージとは逆に、末期がんにおかされほとんどをベッドですごす「静」の役どころ。田中さんも、はじめの記者会見では「舞踏家が寝てるばかりじゃあ」とボヤかれたそうですが、映画になったのを見たときは、「踊っているときの感覚が見えた」※そうです 。ますます舞踏の世界の奥深さを感じます。コワイのか、やさしいのか、寂しいのか・・・最後までとらえどころのない卑弥呼ですが、死の間際に、娘である主人公に向かって、『本当のことを言うわ・・・』とじっと見開いた目で漏らす、『・・・あなたが、好きよ・・・』の一言は、まさに究極のゾクゾク感。それは、怖いとかドキドキするとかそういう陳腐な言葉ではもはや表せない、フシギな感覚を私たちにもたらす演技です。
舞踏や農業のくらしがどのように結実して、かの役たちをつくりだしていったのか、30日はぜひその一端が伺えるといいなと、いまから楽しみに思います。(横山梓)
※ クロワッサン2008年2月25日号 インタビューより

レポート|オリエンテーション 小林真理(文化資源学)

10月10日、後期の開始を告げるオリエンテーションが小林真理先生(文化資源学)からありました。ここではごく簡単に振り返ってみます。
まず、後期のテーマは「記憶・身体・コミュニティ」ですが、前期のテーマ「公共性・多様性・マイノリティ」も引き続き講座の根底に流れているということを確認しました。
次に、この公開講座を実施していることについて、問題意識を共有する人と集うことがまず大事だということを、小林先生自身の経験―ある制度についての意見をインターネット上で呼びかけたら、たくさんの反応があったということなどを交えて語ってくださいました。そして、なぜこの国は文化の問題を重視しないのか?という問いに行政側だけに「○○すべき」という価値判断させることを許してしまう市民の姿勢にも問題がある、と指摘しました。この講座では、より多くの人が豊かに生きていくために、自分たちは何ができるのか?をひとりひとりが自分に問い直すことが求められています。
議論を深めるために、基調講演や事例を話してくださる講師の方々について、なぜこの方を選んだのかについても触れられました。さまざまな分野で活躍されている講師のみなさんのお話を聞くのはとても楽しみですね。
大澤さんから後期の講座の進み方、最終課題についての説明もありました。前期のグループとは別に、新たなA~Jグループが編成され、講義を聴いたあとにディスカッションを行います。またそのグループとは別に「サークル活動」としてより関心の近い仲間同士が集まり、グループワークを行うことになりました。そして「あなた自身が実践できる市民社会再生」をひとりずつ表明するという課題が出されました。
それから、新しいグループごとに挨拶が交わされ、ディスカッションを進行する際のリーダー・サブリーダーを決めました。後期もそれぞれ個性豊かなグループができあがりました。ちなみに前期のグループのメーリングリストは今でも有効だそうなので、新しいグループの関係を育みつつ、前期のグループワークを通して絆を培った方々とも交流を続けていければ、と思います。小林先生が最初に触れ、ほかの運営委員の方からもお話があった通り、人間関係自体が大切な資源です。盛りだくさんで大変なこともあると思いますが、たくさんの出会いを楽しみ、このミニ「市民社会」を大いに盛り上げ、日常生活の糧としましょう。前期から引き続きの方も、後期からご参加の方も、どうぞよろしくお願いいたします!(池田香織)

2008/10/10

著書の紹介|沼野充義

次回、10月24日(金)の第8回講座の講師、沼野充義先生の著書を紹介します。

徹夜の塊-亡命文学論
作品社、2002
ユートピア文学論-徹夜の塊
作品社、2003
屋根の上のバイリンガル
白水社、1996
スタニスワフ・レム『ソラリス』(訳書)
国書刊行会、2004

感想文●沼野充義「亡命文学論」

後期第二回目、10月24日の沼野充義先生の講義へ向けて『徹夜の塊-亡命文学論』(作品社、2002年)を拝読しました。この本は、沼野先生によって書かれたロシア東欧の「亡命作家」についての文章が、まとめられ、再構成されて新たに一冊の書物になったものです。
わたしはロシア東欧の歴史についてあまり知識がないまま読み進めてしまったのですが、亡命ということを軸に集められた、作家・作品の紹介文のように読むことができました。本文では、数多くの亡命作家について、その理由や状況、それぞれに異なる亡命のあり方、または、亡命作家の作家としての活動にまつわる内面的なことがらや、活動を取り巻く枠組についてなど、幅広い内容が書かれています。
みなさんは「亡命」という言葉を聞いてどのようなことをイメージされるでしょうか。現代の日本において、「亡命」ということを自分自身に関係のあるものとして、ごく身近なものとして考えたことのある人は大変少ないのではないだろうかと思われます。先生も本文中で指摘されていることですが、漠然と何かロマンティックな響きを感じる人も多いと思われます。私自身もタイトルの「亡命」という言葉にはるかに遠い土地での出来事を遠くからうっすらと見るような感覚を持ちました。しかし、本文において先生は「亡命」という状態に含まれるわたしたち人間の全員にかかわりある「究極の問い」を指摘されています。その問いとは、私たちの人間の生の「起源」と「終末」についてです。私たちはその問いのどちらも確かめることはできないで「起源」と「終末」の「間」の時間を生きています。亡命者が「ユートピア」を離れもう一つの新たな「ユートピア」求めてさすらい、その「『間』を漂い続ける」ということに、私たちの生のあり方の原型を見ることができると指摘されています。
前期・夏休み課題を通じて、ひとの集まり、それを作り出すこと、支える枠組みなどについて考える機会がたくさんあったように思います。さて、本書で取り上げられている「亡命」は集まりや枠組みの境を飛び越えようとする力によるものと考えられます。ご自身も亡命者のように越境と回帰を繰り返してこられたという沼野先生が、どのような切り口で「市民社会」あるいは「文化の射程」ということについてお話くださるのか大変楽しみに思います!(木下紗耶子)

後期オリエンテーション

■後期スケジュール
後期7回 記憶・身体・コミュニティ
10/10(金)オリエンテーション|小林真理(文化資源学)
10/24(金)基調講演|沼野充義(ロシア・東欧文学)
10/31(金)事例1|田中 泯(舞踊家・振付家・農業者)
11/ 7(金)事例2|野田秀樹(劇作家・演出家 )渡部泰明(国文学)
11/21(金)事例3|鳥越けい子(サウンドスケープ)
12/ 5(金)事例4|杉山知子/木ノ下智恵子/山口洋典
   (C.A.P./大阪大学コミュニケーションデザインセンター/浄土宗應典院)
1/ 9(金)グループワーク発表

■基本的な授業の流れ
授業開始前(18:40まで)に教室前で出席を確認
(出席カード提出、押印、リストのチェック)
18:40 開始
 講義(60分)
 グループディスカッション(15分)
 質疑応答(25分)
20:20 終了

■グループ編成の説明
受講生はA〜Jの10のグループに分かれて着席します(概ね前期の出席状況からグループごとの出席率が均等になるよう配慮しました)。
グループは、各回の講義での意見交換や質問の集約など、受講生の積極的な参加による双方向の授業を行うために編成します。
1つのグループは10人前後で編成し、公開講座の運営委員とアシスタントを配置しています。
グループ内で、議論をリードする「グループリーダー」「サブリーダー」を決めてください。

■サークル編成の説明
講義時間内の「グループ」とは別に、講義以外の時間も議論や情報交換を活発に行っていただくため、受講生の発案、発意による「サークル」を組織します。
後期の課題(後述)を見据えたアイデアを受講生・運営委員ともに出し合い、サークル単位で活動に取り組んでいただきます。
「サークル」は、毎回出席の受付周辺で掲示板を設置し、講義終了時間で呼びかけ、自主的に情報交換の手段を構築していただきます。

■レポートとコメント
各回の講義は、アシスタントが概要のレポートを作成し、ブログに掲載します。
ブログ上のレポートに対して、1グループにつき2人の受講生は、コメントを投稿して下さい(受講生全員が、前期と後期で必ず1回ずつはコメントを投稿して下さい)。
誰がコメントを投稿するのかは、グループの中で決めてください。
コメントの字数は200字程度とします。
ブログへのコメントの方法は、メールでインストラクションを行います。

■課題の説明
後期の課題は、下記の通りです。
「あなた自身が実践できる市民社会再生」に取り組み、その中で考察したことをA4×1枚のレポートにまとめて下さい。

レポートは、ウェブサイト上で公開します(基本的にお名前の公開を前提とします)。
最終回1/9(金)の後期グループワークの発表は、「サークル」ごとに発表します。
12/19(金)18時より、本教室をグループワーク準備のために提供します。
修了証は出欠+課題の提出で発行を決めます。
形式は自由ですが、各サークルごとにプレゼンテーションできるように体裁を揃えてください。
例えば、各自のレポートをWordファイルにまとめた報告書、画像を使ったPowerPointのプレゼンテーション、webサイトの制作など、創意工夫をしてください。
1月9日のグループワーク発表では、各グループごとに短いプレゼンテーションを行います。
発表されたプレゼンテーションは、公開講座のウェブサイトで発表します。