2007/12/21

第11回|大谷燠氏+曽田修司先生

第11回の講義は、前回の鷲田先生に引き続いて大阪から、NPO法人DANCE BOXの大谷燠氏をお迎えしました。DANCE BOXは、大阪市の政策の変更によって、拠点にしてきた施設が閉鎖されるといった、文化行政の大きな波に飲み込まれて困難な状況に立ち向かっています。その様々な現実を、受講生はどのように受け止めたのでしょうか。
アートの事業性難しいですね。そもそも行政と協働する時点で、その問題はクリアになるような気がするのですが。大谷さんのお話の中で多様性に基づいたマイノリティから発想するデザイン、もう少し詳しく聞いてみたかったです。

お話を伺っている中で、「行政」というものは何のために、何を考えて運営しているのか、というのが全くみえないように感じた。市民や地域で活動する様々な団体に対して説明責任が果たされていないのではないだろうか。大谷さんのダンスへの思いがさいごに聞けたのは良かったです。

市政として収入がないのに芸術を選択するのは難しい。人は飢えてもアートが必要か?家や食料や仕事よりもアートを選ぶか??自分が市政を執る人間だとして、市民は何を望むか?行政に対して望めるのは、新しい芸術をうたったアクションプランや、過去にあったプランの復活ではなく、「政策が変更になった際の誠意ある対応」のみだと思います。

志と環境(制度)のかい離、行政の体質の問題にまたあたってしまったと思った。誰のために、何のために、文化活動が行われるのか、また再考させられた。

本来、文化政策を率先すべき行政の無責任な方針転換に振り回されてしまっているようで気の毒です。市民社会再生・・・、やはりお上には頼れない。市民自らの手で成しとげるしかなさそうですね。

曽田先生が大谷さんに質問する時に使った言葉「相手が市であるために民間では言いにくいこと」何故私たちが“言いにくい”と思ってしまうのか、そこに市民社会再生の鍵があるような気がしました。行政はじめ社会のしくみや制度は、本来そこで生きる私たち一人一人が、もっと豊かに生きることができるようにつくるものだと思うんです。

大谷氏が向き合う状況が困難であるだけに、行政に対する疑問、ある意味では失望といったコメントが多かったのは事実ですが、おそらく行政に所属されている受講生の方もご意見はあったのではないかと思います。できればその声にも耳を傾けたかったと思います。
この日は講義終了後も、有志の受講生が大谷氏を囲んで引き続き議論を行いました。とても有意義な時間を過ごすことができました。

2007/12/07

第10回|特別講義 鷲田清一先生

12月7日は、大阪大学学長の鷲田先生を迎えての特別講義でした。「市民社会再生」、そして今年度のテーマである「文化の有効性」について、その本質を分かりやすい言葉で語られた鷲田先生。受講生のコメントを紹介します。
普段社会の中で「変だな」と感じていたことを鷲田先生に見透かされ、言い当てられたような気分でした。システム化された社会で、それが良いことであるとされている中で、私たちの市民社会が成り立ちにくくなっていると思いました。システム化社会の中で私たちの市民権をつかみとるそのための可能性を「アート」はもっていると感じました。「アート」や“「アート」を社会にひらく”といった言葉を聞く機会はとても多いですが、本当の意味や真剣さをもって発信していきたいと思いました。

私達が生きている社会はあらかじめ決められた見えないルールがあるなと先生の意見を聞いて感じました。また、私達はそのルールのことを意識しすぎなのだと思います。そのルールがとどかない空間である原っぱは、私達に必要な場だと思いました。アートプロジェクトは、アートを考えるのではなく、その考える行為を行うという意味で人が能動的に働きかけるきっかけを与えてくれるのではと思いました。

今回の講義では、“なぜアートなのか”について鷲田先生のご意見が聞けて腑に落ちる経験をした気がしました。(これまでの講義では、アートあるいは文化の有効性ありきで進んだものであったように思われるので)方法論ではなく、それ以前の場所について、考えてみることができたのが新鮮でした。そこを考えることが、方法論や実践の場に生きれば素晴らしいものになるのではないかと思いました。

アートの話でしたが、経済も同じだと思いました。多くの企業が、特に金融機関はサブプライムや不良債権や敵対的M&Aや新興企業経営者の出現を、諸悪の根源のように指摘し続けてばかりで、成長機会がないと言い訳しているところが多い。まるで自らはイノセントだと言わんばかりに。能動的態度の経営が、経済の再生をもたらすだろうと感じた。

「地域興しになぜアートか?」という問いは、北川フラム氏はじめ、後期の講師陣の何人かの方か言及されています。それぞれの立場によって洞察のベクトルが違い比較すると面白いと思いました。

最近、何かと自分について考えることが多くなっていまして、「自分の存在が浮いている」感覚を日々感じているのですが、『誰でもできる事をしているうちに、まわりの人が、自分にしかできないものを見つけてくれる』という言葉をお聞きし、悩むばかりではなく、とにかく目の前にあるものから毎日を過ごしていこうと思います。

感動的な講義でした。今まで人とアートに関ってきて、今後も続けていこうと思いました。面白かったです。

私は、鷲田先生の講義の中で(そしておそらく今年度の全12回の講義の中で)もっとも印象に残った短いフレーズは、「アートは、民主主義のレッスンである」という言葉でした。市民社会再生の鍵は、そこにあるような気がしています。
(コメント編集:大澤寅雄)