2008/06/17

感想文●南嶌宏「人間の家-真に歓喜に値するもの」

6月27日の南嶌宏先生(女子美術大学芸術学教授、前熊本市現代美術館館長)の講義に先立ち、『ATTITUDE 2007 人間の家-真に歓喜に値するもの』(熊本市現代美術館2007)に南嶌先生が寄せられたエッセーを拝読した感想を記します。
「神様、私をあなたの平和を広める道具にお使いください。…」―アッシジの聖フランチェスコの「祈りの言葉」(「平和の祈り」)が冒頭に掲げられたこのエッセーでは、2002年の熊本市現代美術館開館までの準備期間2年半と開館後の5年間の南嶌先生の歩みが、つぶさに語られています。
「現代の美術を通して人間のありようを検証する美術館」という基本理念を持つ熊本市現代美術館では、開館記念展「ATTITUDE 2002」において、堕胎を強制されたハンセン病元患者の女性が、わが子の代わりにしてきた抱き人形「太郎」が展示されました。「ATTITUDE 2007」展のポスターに使われたのはハンセン病回復者である成瀬テルさんの20歳の頃のドレスを纏った輝かしい写真(この公開講座のホームページの開講趣旨のページにも使われています。)で、この展覧会では、ハンセン病回復者の人々の作品が世界の現代アーティストたちの作品と共に展示されました。差別され、人間としての権利を奪われてきた人々の表現に人間の美しさを見出し、光を当てたのです。美術史の枠組みにとらわれず、人間の営みを見つめる「人間の家」としての美術館の可能性を提示しています。
エッセーでは、日本にある13のハンセン病の国立療養所、そして台湾と韓国の療養所を巡る間のハンセン病回復者一人ひとりとの出会いの記憶が、大切に思い起こされ、書き綴られていました。美術の専門家である前に、常にひとりの人間として真摯に向かい合う様子が浮かんできました。
私は、自分の大学の博物館学の授業の一環で、多摩全生園と国立ハンセン病資料館(前高松宮記念ハンセン病資料館)に訪れたことがあります。資料館の展示では、入所者の人々が文学や絵画を創作していたことにも触れていて、印象に残りました。エッセーの中で南嶌先生もご自身の無知と無関心を責めておられましたが、私もハンセン病資料館にはじめて行ったとき、これまでの関心を持たずにきた自分が恥ずかしくなったのを覚えています。そういえば聖フランチェスコに大きな影響を受けたというマザー・テレサは「愛の反対は憎しみではなく無関心です」と言いました。
人間としての権利、尊厳を奪われてきた人々、差別や偏見にさらされた人々に目を向けること、そして自分のATTITUDEを問い直すことが私たちには必要なのではないでしょうか。これは前回の大沼先生の講義内容にも通じるものだと思います。(池田香織)

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